映像力が光る実写ドラマ『映像研には手を出すな!』
今回ご紹介する物語は『映像研には手を出すな!』というドラマです。
本作は漫画家・大童澄瞳さんの同名コミックが原作で、大童さんのデビュー作品となります。シリーズ累計発行部数は100万部を突破するほどの大人気漫画です。
そして今回ご紹介するドラマ版の指揮をとるのは、映像化が難しいと言われる数々の原作を実写化してきた英勉(はなぶさつとむ)監督です。
彼は『あさひなぐ』(2017)や『賭ケグルイ』(2019)、『ぐらんぶる』(2020)などの映画を手掛けています。
ドラマ『映像研には手を出すな!』の魅力をお伝えする前に、まずは予告映像を観てください。
主役を演じるのは人気アイドルグループ・乃木坂46の齋藤飛鳥、山下美月、梅澤美波の3人。
アニメが大好きで極端に人見知りな「浅草みどり」を齋藤飛鳥さんが演じ、アニメーター志望のカリスマ読者モデル・水崎ツバメを山下美月さんが務めています。
そして、アニメに興味はないものの、金儲けの嗅覚と持ち前のビジネスセンスで、プロデューサー的立ち位置の金森さやかを演じるのは梅澤美波さんです。
この3人が芝浜高校を舞台に、”最強の世界”を夢見てアニメ制作に邁進する、青春冒険部活ストーリー。
圧倒的な映像力
ドラマ『映像研』のいちばんの魅力はなんと言っても、ハイクオリティのVFXを多彩に駆使してダイナミックかつ魅力的な映像です。
VFXとは、現実世界では見ることができない画面を演出させるため映像技術のこと。簡単にいえば映像を加工する技術のことです。こちらの動画を観てもらえばわかると思います。
これがVFXという映像技術です。面白い映像ですよね。
英勉監督はCGやVFXなどの映像技術を実写に取り入れていき、見る人を釘付けする魅力的な映像を作り上げる名手と言われています。
CGやVFXをどのくらい用いれば、実写の意義を損なわず、かつ原作の面白い画を表現できるかを見極めるのが秀逸なのです。
『映像研』ではリアルで迫力ある映像として見せるためだけにVFXを活用するのではなく、アニメーションとしても活用しており、絶妙なバランスで実写とVFXが融合しています。
実写のよさを決して損なうことなく、CGやVFXなど映像技術を導入し、より映像力のある画を生み出しています。
実写だけでは表現しきれないところを、CGやVFXが補うことで”最強の世界”が生まれるのです。
とくに第1話で浅草みどりと水崎ツバメが考える、飛行ポッド「カイリー号」が線画アニメーションでぐんぐん完成されていくシーンは、瞬きするのも忘れて食い入るように見入ってしまいます。それほど映像に”チカラ”があります。
そして完成されたカイリー号に3人が乗り込み、広大な”最強の世界”を飛びまわる大迫力の映像を観たときは、火山が噴火したような興奮を覚えました。
おもわず「すごい……」と感嘆の声を漏らしてしまうほど。
第2話でも部室の妄想が線画アニメーションで作られていくシーンや、浅草みどりが考える新たなメカ「プロペラスカート」が登場する場面も心躍らせました。
その他にも生徒会に見せる活動実績として作るアニメの構想の世界も観ていて面白いです。
ダイナミックで迫力ある美しい映像はとにかく、観ていてわくわくが止まりません。第1話からがっちりと心を鷲掴みにされます。
だから騙されたと思って観ていただきたい。きっとあなたもその映像力に圧倒されるはずです。
実力派揃いの主要キャスト
主役の3人をはじめとする主要キャストの演技力も、実写『映像研』の魅力の一つです。齋藤飛鳥、山下美月、梅澤美波は、他ではあまり見られない姿が見られて面白い。
「3人が完全に映像研のキャラだ!」「これまで見たことのない表現!」など演技力の高さを評価する声も多くありました。確かにそのとおりだと思います。
ほかにも、原作に比べると見た目がかわいすぎるという声がありました。
しかし、映画やドラマの登場人物というのは目で見える表面的な部分だけではなく、話し方や動き方など総合的に表現されるものではないでしょうか。
見た目よりもそのキャラクターの内なる部分を踏襲しているかどうかが大事なはずです。
原作者の大童さんはあるインタビューでこう答えています。「金森氏は四角、水崎ツバメ氏は三角、浅草氏は丸、で描いていて、そうした特徴が今回の配役にも見て取れて、きれいな選択になっている」と。
浅草みどりを演じた齋藤飛鳥さんは、浅草氏のアニメへの情熱が観ているこちらにひしひしと伝わってきます。
演技力がなければそんなことは起きないでしょう。表現の豊かさもあり、こちらまで熱い想いがこみ上げてくるよう。
とくに最終話で超が付くほどの人見知りな浅草氏が、何かが爆発したように、涙をためながら長セリフを叫ぶシーンは必見です。何度観ても熱い気持ちにさせてくれます。
他にも第3話のクライマックス、すさまじい速さで絵コンテを描き上げる場面では、スピード感たっぷりの長セリフには舌を巻くほど。
普段の乃木坂でのイメージとはまるで正反対で、見事演じっぷりに胸を揺さぶられました。
それから長身の金森さやかを演じるは、こちらも170センチと長身の梅澤美波さん。見た目もさることながら、第2話で生徒会に映像研の目的や概要を説明する場面は目を見張るものがあります。
後ろで見守る浅草と水崎のように緊張感が漂う中、交渉する姿におもわず声が漏れてしまいました。まるで金森さやかが乗り移ったかのような熱演ぶりに、瞬きすることさえ忘れてしまうほどです。
そして水崎ツバメを演じる山下美月さんは、ちゃんとカリスマ感が出ており、まさにカリスマ読者モデル・水崎ツバメでした。
彼女は女性ファッション雑誌「CanCam」の専属モデル。自然とその雰囲気を醸し出してしまうのでしょう。
水門から川に落ちるシーンでは体を張って飛び込んでおり、全身で演じきっている感じが見ていて清々しさを感じました。
第5話で生徒会に提出する動画が間に合いそうになく、無理やり尺を伸ばそうとする場面があります。その最後で「わたしのアニメーションに手を出すなー」と叫ぶシーンは、ここの底からそう思い叫んでいて、こっちまで心臓をえぐられ思いでした。
3人のテンポよい掛け合いも見ていて気持ちよかったです。日頃から乃木坂46として一緒に活動しているからこそ光る連携力。そのチーム力は映画『あさひなぐ』で乃木坂を起用していたときから目をつけていたのかもしれません。
やはり、乃木坂46メンバーはトータルの能力が高い。きっと今後も色んな場面で活躍しますね。
クリエイター魂が宿った作品
小説や漫画を実写化するのは、なかなかハードルが高いもの。「原作のほうが面白い」「原作を読んだ人は観ないほうがいい」などのコメントもよく見かけます。
『映像研には手を出すな!』はアニメ版もあり、監督を務めたのは湯浅政明さんです。
彼は『夜は短し歩けよ乙女』や『きみと、波にのれたら』などの映画作品を手掛けている、日本を代表するトップクリエイター。やはり原作とも、アニメとも比較されてしまうでしょう。
しかし実写には実写のよさがあります。たとえば細かな表情や身振り手振りなど、より繊細な表現ができるのは実写ならでは。
目の動きや指先一つとっても、生身の人間が表現するほうが生き生きとした映像に。
比べられることを承知の上で、あえて実写化に挑戦することにクリエイター魂を感じずにはいられません。
公式サイトに『「映像研」と日本映画界の全面対決』とありますが、それは決してハッタリではなく、制作陣の映像づくりに対する情熱が見て取れます。
とても熱量に満ちた作品だと思います。原作者の作品に敬意を払い、決して原作を殺さずに一作品として仕上げていますから。
原作の骨幹をそのままにうまくオリジナリティを加え、より原作のよさを引き立たせてさえ。
ドラマ版では漫画では描かれてない場面もあり、こういうストーリーもあるのか、と原作漫画を読んだ人も楽しめます。
不可能を可能にする。英勉監督は映像化不可能と謳われる作品を次々、実写映画として創り出してきた方です。
日本映画界だけではなく、本物のクリエイターならこれくらいのものをつくってみろ、とすべてのクリエイターに挑戦状を叩きつけているようにさえ思えてしまいます。
作品づくりに対しての熱量が人一倍あるのでしょう。
実写『映像研』は映像力はもちろん、メインキャストたちの演技力の高さ、浅草たちのように熱いものを持った制作陣の作品づくりに対する情熱の高さなど、総合的に見てもレベルの高い作品です。
正直、初めてドラマ『映像研』を観たときは驚愕しました。こんな映像見たことないと。
映画『映像研には手を出すな!』
ここまでドラマ『映像研には手を出すな!』について語ってきましたが、ドラマ版は序章に過ぎません。なんたって映画こそ、本命なのですから。
ドラマ版は映画に勢いをつけるためでしょう。映画では、より高次元でダイナミックな映像が待っています。
そして映画『映像研には手を出すな!』は2020年3月3日に発売予定。これは絶対に手を出さないわけにはいかないのです。
だけどその前にドラマ版全6話を観ることを強くススメたい。ドラマと映画、合わせて実写『映像研』ですから。そのほうがより楽しめると思います。
けれども予習している暇はない、という人に朗報です。映画冒頭の約20分で一連の流れをプレイバックしてくれるみたいです。
ドラマ版を観ていなくても、問題なくその物語に入り込める安心設計。
「本当に面白いのか?」「そんなにすごい映像なの?」という声が聞こえてきそうですが……。
うだうだ言ってないで刮目せよ! 良いか悪いかは、そのあとだー!