映画

青春の煌めきと残酷さを描いた映画『青くて痛くて脆い』

あなたはこの青春の“嘘”を見破れますか?

今回ご紹介するのは、青春サスペンス『青くて痛くて脆い』という映画です。

この作品は、2015年に『君の膵臓をたべたい』(以下、キミスイ)で、鮮烈なデビューを飾った住野よるさんの同名小説が原作。本作は住野さんの五作目となる作品で、『キミスイ』に続く二作目の映画化となります。

原作は2018年〈二十歳が一番読んだ小説ランキング〉にも輝き、ベストセラーになりました。住野さん自身が発売当時のインタビューで、”最高傑作”と述べるほどの意欲作だそうです。

【あらすじ】キミスイの価値観をぶっ壊す青春サスペンス

大学一年の春、コミュニケーションが苦手で、人に不用意に近づきすぎないことを信条にしていた田端楓は、秋好寿乃に出会う。

彼女は理想を目指すあまり、空気の読めない発言を連発し、周囲から浮いていた。けれど秋好は、誰よりも純粋だった。正反対だが、ひとりぼっち同士、磁石のように惹かれ、二人は”世界を変える”という大それた目標を掲げる秘密結社サークル「モアイ」を立ち上げる。

しかし、秋好は”この世界”からいなくなってしまった……。

その後のモアイは、当初の理想とはかけ離れた、コネ作りや企業への媚売りを目的とした意識高い系の就活サークルへ。そして取り残されてしまった楓の怒りや憎しみが暴走していく。

「僕が秋好が残した嘘を、本当に変える」

あいつらをぶっ潰す。モアイをぶっ壊す。どんな手を使ってでも……。

秋好が叶えたかった夢を取り戻すため、楓は親友の董介や後輩のポンちゃんと手を組んで【モアイ奪還計画】を企む。

青春最後の革命が、いま始まる──。

原作の世界観をそのままに

筆者は原作者・住野よるさんの小説が大好きないちファンです。全部ではありませんが、ほとんどの作品を読んできました。数々の作品の中でも『青くて痛くて脆い』は三本の指に入るくらい、いい作品だと思っています。

映画化が発表されたときは素直に嬉しかったです。しかしそれと同時に「どう映像で表現するのだろう?」という不安もありました。小説は、文章ならでは表現で綴られているからです。

文章表現だからこそできる”かくしごと”を、映像で表現するのは難しいことではないでしょうか。いちファンとして、「原作の世界観が崩れてしまうのでは?」という心配がありました。しかしそんな心配をする必要はなかったようです。原作の世界観を崩すことなく、見事な映像がスクリーン映し出されていました。

なので原作を読んだみなさん、安心して観てください。そこには青くて痛くて脆い青春の日々が描かれています。

僕は原作を読んだとき、楓はもっと地味な人間というイメージを持っていました。吉沢亮さんが演じると知ったときは、違和感を感じてしまいました。「楓はあんなにカッコよくない」と思ったから。

しかしスクリーンの中にいたのは、紛れもない楓でした。俳優・吉沢亮のすごさを僕はまだ、知らなかったようです。

田畑楓を演じる吉沢亮さんはこれまで、難易度の高いキャラクターに命を吹き込んできた役者さんでした。『青くて痛くて脆い』も鋭くエッジの効いた作品ですが、吉沢亮さんはこれまでにもそんな作品を多く関わってきています。

たとえば感情が欠落した復讐代行人を演じた『GIVER 復讐の贈与者』というドラマや、死体を愛するゲイの青年に扮した映画『リバーズ・エッジ』なども、非常に難しい役どころです。

おそらく監督の狩山俊輔さんはその印象を持っており、癖のある楓を演じるは吉沢亮さんしかいない、と思ったのではないでしょうか。

他者からどう思われるかで自分の価値が決まる、という一種の強迫観念が各人の中にないとは言い切れない現代社会で、人々の“弱み”につけ込もうとする楓。そんな彼の狂気を体現した吉沢亮さんの演技は本作に必要不可欠な存在でした。

そして秋好寿乃を演じる、杉咲花さんも同様です。若手ながらも着実にキャリアを重ねている杉咲花さんと言えば、『湯を沸かすほどの熱い愛』という映画で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞する、日本を代表する若手実力派女優です。

人気と実力を兼ね備えたお二人だからこそ体現できる、青春の“青さと痛さと脆さ”が、スクリーンに焼き付けられています。キャスト陣の醸し出す空気感、雰囲気はまさに『青くて痛くて脆い』の世界と言っていいでしょう。

”あったかもしれない”世界

映画化にあたり原作者の住野よるさんこう話しています。

「映像化は原作とは別物だとは思ってます。それは『青くて痛くて脆い』でもそうで、映像化は原作を元にした、あったかもしれない話、という感覚」だと。

この言葉には共感しました。原作の「ひょっとしたらこんなこともあったのかもしれない話」が映画化なんじゃないかと。そうとらえることで一作品として観ることができ、その作品のよさに気づくことができるのではないでしょうか。

同じ物語でありながら、原作と映画はそれぞれ個々の作品として存在するものなんだと思います。なので比較するのは筋違いでは、と思うのです。

しかしながら原作の映像化を毛嫌いする人も世の中にいるのが事実。そういう人たちを否定する気はありません。が、原作は原作、映画は映画で、真正面から向き合ってほしいと勝手ながら思ってしまいます。

原作では、楓と秋好が結成したモアイの活動は主に、美術展を見に行ったり、講演会を聞きに行ったりすることでした。映画では積極的にボランティア活動をする場面が描かれていました。そのなかでも不登校の子供たちのためのフリースクール支援に力を入れています。

そこではフリースクールに通う、瑞希というオリジナルキャラクターが登場します。彼女が登場することで、『青くて痛くて脆い』のメッセージ性をより強めているように思います。

瑞希というキャラクターは、原作者の住野よるさんが作品に込めた「人は変われるはずだ」というメッセージが吹き込まれているそうです。そしてそれと同時に、「変わる時は人によって違う」ということも伝えているのだとか。

彼女が苦悩しながらも前に進む姿には、勇気をもらえます。

また楓と秋好が教室で言い争いをするシーンでは、撮影前、杉咲花さんが監督に「泣いてしまうかも」と言ったのだそうです。しかしそれに対し監督の狩山俊輔さんは「楓に涙は見せちゃだめだよね」と答えたとか。

楓と秋好が言い争う場面では、秋好が楓に「気持ちワル」と言う場面が、強烈な印象を与えます。そして最後は楓がバタンとドアを閉めて去っていき、杉咲花さん演じる秋好の目から涙があふれるのです。結果的にこれが秋好の脆さを表現するシーンとなりました。

たしかに秋好は楓に自分の涙を見せる人間ではないかもしれません。しかし”あったかもしれない世界”をつくり出すことで、より原作のよさを引き立たせることができたのではないかと思います。

映像と音楽のコンビネーション

本作の主題歌は、若い世代を中心に大きな注目を集めている4人組のロックバンド・BLUE ENCOUNT(以下、ブルエン)の『ユメミグサ』です。

小説のテーマソングにも、ブルエンの『もっと光を』が使用されています。原作者の住野さんたっての希望で主題歌をオファーするに至ったのだとか。

ブルエンと本作の世界観が融合し、青春の儚さと美しさが見る方々に迫る仕上がっているのがとても素敵でした。

映画の終わり方としては、その先を想像に任せるといった感じで、個人的にはいい終わり方のように思います。しかし観る人によってはきっと突き放された感覚になったのではないでしょうか。

『ユメミグサ』は、誰しもが持っている若さとか青さを突き放さないで終われる曲で、映画のその先を『ユメミグサ』の内容とメロディが描いてくれる主題歌。だから決して突き放してはいません。

住野よるさんも「この映画は『ユメミグサ』を聴いて完成する作品です」と語っており、映像と音楽のコンビネーションは見事なものでした。

成長と変化

映画『君の膵臓をたべたい』に続く、そして『キミスイ』を超える待望の住野よる作品、それが『青くて痛くて脆い』という映画です。

原作者である住野よるさんは「僕が『膵臓』からずっと描き続けているのは、〈人は変われるはずだ〉ということ」だと語っていました。

本作で描かれた楓の変化は、紆余曲折がありながらも、人としての成長につながるものでした。もちろん楓だけでなく、秋好や瑞希も。それぞれがその時々に変化し、そして成長していく姿に、「きっと自分も変われるはずだ」と希望が見えてくるのではないでしょうか。

本作は“傷つく”ということについても、強いメッセージを含んでいると思います。楓は人との関わりを希薄にすることで、傷つくことを避けてきました。しかし秋好に出会って、想定外に彼女と関わりを持ったことでその関係が失われたときに傷ついてしまう。

人と関わるときに傷つくことは避けられないのかもしれません。そしてその経験が自分を変え、成長につながるのだと。

人は簡単に意識を変えることができない生き物なのでしょう。だけど行動した先で変化が起き、意識が変わることを本作では示しています。つまり行動しなければ成長はないということ。

あなたがこの青春に隠された“真実”を見つけ出せることを願っております。